世界的に注目される取り組みである「エシカルファッション」は、SDGs、サステナビリティへの意識の高まりもあり、ますます重要なテーマになっています。
エシカルとは直訳すると倫理のことです。エシカルファッションの普及により、近年では環境、社会、人権に配慮されず製造された衣料品は受け入れられなくなりつつあります。
今後は最新の流行を取り入れたファストファッションだけでなくエシカルファッションの需要も増えていくでしょう。現に各国の有力なファッションブランドも、エシカルファッションの生産に力を入れています。
農薬や化学物質に頼らないオーガニックな生産、生産に携わる労働者への不当に安い賃金を許さない、リサイクルやエネルギー問題に取り組む、毛皮など動物の生命を奪う製品を作らないなど、さまざまな課題を解決する糸口としてエシカルファッションが位置づけられています。
今回の記事では、エシカルファッションに取り組むブランドの紹介や、エシカルファッションがもたらす可能性なども説明します。最後まで読めば世界的にも重要なキーワードであるエシカルファッションへの理解も深まるでしょう。
エシカルファッションとは?
エシカルファッションとは、地球環境や働く人のことを考慮したうえでオシャレを楽しむファッションのことです。
これまでファストファッションの普及により、アパレルメーカーではデザイン・機能とともに低価格での生産が主流とされていました。しかし、製造にかかわる人々や労働環境が重くのしかかり、膨大な量の廃棄を生み出していることも浮き彫りになってきたのです。
エシカルファッションは「素材の生産者、縫製工場の労働者、そして地球環境にダメージを与えてまで身に纏うオシャレは胸を張れるものなのだろうか」という問いかけに対する1つの動きとして、国際的に広がりを見せています。
また生産現場だけでなく、流通、販売、そして消費者の手に渡ったあとまでエシカルを考慮する対象となっています。
これだけはおさえておきたいエシカルファッションブランド18選!
国際的にもエシカルファッションへの関心が高まり、多くのファッションブランドの取り組みから「エシカルファッションブランド」が次々に生まれています。
ここでは国内外の主要なエシカルファッションブランドを紹介します。
1. Stella McCartney(ステラ マッカートニー)
Stella McCartneyはエシカルファッションのパイオニアとも言われます。早くから動物の毛皮を使わないなど一貫して環境保護を訴えてきました。高級繊維、カシミアの代替に廃棄生地の再生に取り組むなど、世界的にエシカルファッションを発信しています。
2. H&M
H&Mは各国に拠点をもつ巨大ファッションブランドであると同時に、2000年代からオーガニックコットンの開発、使用を始めてきました。2030年にはリサイクル可能なものと、サスティナブルに調達された原料のみの使用を宣言しています。
3. Vivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)
Vivienne Westwoodはアフリカの貧困層の人々に継続的な仕事を依頼し、フェアトレードに特に力を入れてきました。環境保護にも熱心で、熱帯雨林保護や気候変動の注意喚起を訴えるショーの開催なども行っています。
4. Patagonia(パタゴニア)
Patagoniaは早くからオーガニックコットンの使用にシフトさせたほか、売上の一部を環境保護のために寄付し続けてきました。衣料品の製造が地球に与える負荷についての消費者への情報発信も積極的です。
5. NIKE(ナイキ)
NIKEでは二酸化炭素の排出と廃棄物のゼロを目指すために、消費者が不要になったスニーカーやシューズを回収し、リサイクルする独自のプログラムを行っています。
6. しまむら
しまむらは国内に幅広くチェーンを展開する中で、在庫の廃棄をゼロにしています。生産工程だけでなく店舗のエコ化も推進していて二酸化炭素の排出量を年々着実に低下させています。
7. People Tree(ピープルツリー)
日本発のフェアトレードブランドの先駆け的な存在がPeople Treeです。オーガニックコットンを使用し、手織りや草木染めなど独自の技法を活かすこと、継承することを重視してきました。
現在は世界中にフェアトレードの重要性を発信し、活動の輪を広げています。
8. tennen(テンネン)
tennenでは「ゴミにならず、土に還る服であること」をコンセプトに掲げています。そのため、プラスチック製品のように自然にとって分解できない「ゴミ」になることを極力避ける服作りを目指しています。
9. ECOALF(エコアルフ)
ECOALFはスペインのブランドで、再生素材や天然素材のみで全てのアイテムを製造しています。自社で海のゴミを収集し、ペットボトル、タイヤ、魚網などをリサイクルして生地を開発。そこからウェアを作るという大がかりな生産技術を確立しています。
10. CASA FLINE(カーサ フライン)
京都の地場産業の活性化を行うことで雇用や伝統技術にもつなげていき、「円型循環」を作りたいというのがCASA FLINEのコンセプトです。また、環境負荷がより少ない素材、天然素材などを積極的に使用しています。
11. ashuhari(アシュハリ)
ashuhariは東京を拠点とするエシカルファッションブランドです。「捨てられない服」「手入れを続けて使い続けられる服」を目指し、主に女性の日常着を専門にしています。
12. 宝島染公(たからじませんこう)
宝島染公は、福岡県郊外の田園地帯で天然染料と手作業の染色技法を用いる「中量生産」の染工場です。藍はバングラデシュ産のものを使用するなど、染色に使う天然素材はアジア各国からフェアトレードに参加して調達しています。
13. Liv:ra(リブラ)
Liv:raは日本製のオーガニックシルクを使ったランジェリーブランドです。草木染によって作られた下着は、女性の肌にも優しいパワーがあるとして循環型社会への理解促進に貢献しています。
14. LOVST-TOKYO(ラヴィストトーキョー)
LOVST-TOKYOでは、廃棄リンゴやワイン生産の搾りかすのブドウから生み出された新素材である植物由来のレザーを使っています。しかも軽量で、動物を傷つけることもありません。「ヴィーガンファッション」として注目度が上昇しているブランドです。
15. no nasties(ノーナスティーズ)
no nastiesはインドで生まれた新進気鋭のエシカルブランドです。ラルフローレンのデザイナーがインドの綿花生産地帯の厳しい現実を知って立ち上げました。フェアトレ-ド&オーガニックコットン100%を使用しています。
16. Everlane(エバーレーン)
Evarlaneではコスト、工場や製造過程をすべて公開し、利益なども透明化してきました。これにより調達、製造などでもエシカルを追求していくという意欲を表しています。原材料もエシカルなものへとシフトしています。
17. ORGANIC THREADS(オーガニックスレッズ)
ORGANIC THREADSは、アメリカ生まれのオーガニックコットンを使った靴下専門ブランドです。オーガニックコットンの中でも高級とされる「FOX FIBRE」を使用して、快適な履き心地を実現しました。
18. Re:nne(リンネ)
Re:nneは100%オーガニックのサボテン由来のヴィーガンレザーで製造され、職人が手作りする革製品ブランドです。新しいものに生まれ変わるという意味の「輪廻」に由来する名前には環境保護への願いが込められています。
なぜエシカルファッションが注目されるようになったのか?
近年、エシカルファッションに注目が集まるようになった背景には、次の2つの出来事がきっかけになったと言われています。
- ラナプラザ事故(2013年)
- SDGs「つくる責任とつかう責任」の採択(2015年)
これまでの消費者は出来上がった製品のみを見て、購入を判断していました。しかし最近では、エシカルファッションの普及で製造工程や携わっている人のことも考えるように変化してきています。
ラナプラザ事故とは
ラナプラザ事故とは、2013年にバングラデシュで起きた商業ビルの崩落事故のことです。
死者1,100名、負傷者2,500名という大惨事が起きたビルには、いくつもの縫製工場が入っていました。倒壊の危険が指摘されていながら、違法建築の中で衣料品の生産を続けさせたことが原因と言われています。
発展途上国の一つであるバングラデシュの安い人件費を目当てに、生産拠点としていたのはファストファッションを推進してきた先進国のファッションブランドでした。
ラナプラザ事故により、ファストファッションの裏にあった労働環境の闇が広く知られることとなります。やがて、消費者がエシカルファッションを意識し、製造現場までを想像して、購入と消費の意識改革につながっていったのです。
SDGsの目指すゴール「つくる責任とつかう責任」
SDGsとは国際的な課題を解決するために立てられた持続可能な開発目標のことです。SDGsの目標の1つに「つくる責任とつかう責任」が盛り込まれています。つまり、2015年の国連総会で採決されたSDGsによって、「つくる責任とつかう責任」も世界共通の目標なのです。
SDGsにより、ファッションメーカーでは「無駄な服を作らない」「長く着られる服を作る」などの工夫が浸透していきました。
消費者にも、3R(Reduce:ごみを減らす、Reuse:繰り返し使う、Recycle:ごみではなくもう一度資源に生まれ変わらせる)やアップサイクルなど、消費のムダを減らす取り組みが広がってきています。
SDGsとサステナブルの違いについては、下記の記事で解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
サスティナブルとの関係性
エシカルファッションと関連して「サスティナブル」という言葉も使われるようになりました。サスティナブルとは「持続可能である」ことを意味しています。
ファッションの世界では、エシカルファッションとサスティナブルは親和性の高い言葉であり、ほぼ同じ意味で使われることが多いです。
たとえば、安くて手軽なファストファッションを見直す際に、環境問題の領域を「サスティナブル」、人権や社会問題が「エシカル」の領域と捉えると言葉の理解が深まるでしょう。
エシカルファッション10の基準とは
ここからは、エシカルファッションをより具体的に掘り下げていきます。
イギリスのエシカルファッション支援NPOである「Ethical Fashion Forum」は2006年に設立され、エシカルファッションの定義として以下の10の基準を発表しました。
- 安価な製品を使い捨てる「ファストファッション」のスタイルに反対する
- 生産者・労働者の賃金、権利、労働環境を守る
- 動物・植物の持続可能性をサポートする
- 有毒な農薬や化学物質を使わない努力
- 地球環境に優しい素材を開発、または使用している
- 使用する水の量を最小限に抑制している
- リサイクルやエネルギー問題、ゴミ問題に取り組む
- ファッションの持続可能性を促進し、広めようとする
- エシカルな新しい取り組みを報告し、解決策を広めようとしている
- 動物の権利を保護している
10の基準は、働く人や地球環境への負荷を低減することと、世の中エシカルファッションを広める動きについての2つに分類されます。SDGsのゴール到達のためには、労働者や環境への配慮だけでなく「エシカルファッション」という言葉の認知度も高めていく必要があると言えるでしょう。
エシカルファッションは購入だけが全てではない
エシカルファッションは、環境や人権に考慮されて作られた「新品の服」を選ぶことが全てではありません。
消費者の立場でいえば、使い終えた服を再利用する方法もエシカルファッションと考えられます。
- 古着屋で服を購入する
- フリマアプリを活用して売買する
- アパレルの回収ボックスに出したり、資源として回収してもらう
しかし環境省の調査によると、衣類を廃棄する際は68%が可燃ごみ、不燃ごみとして捨てられており、リユースとリサイクルを行う余地が大きく残されています。
消費者一人ひとりにも「今着ている服を少しでも長く着られないか」「廃棄ではなく、誰かに売ったり、贈ったりできないか」「この服、買いたいけど、本当に着るかな」などを考えことが求められているのではないでしょうか。
エシカルファッションが挑む課題
エシカルファッションがさらに広く浸透していくことで、次のような社会問題、課題の解決が期待されています。
- 農薬や殺虫剤による健康被害
- 漂白剤使用による水質汚染、環境破壊
- リヴィングウェイジが保証されず労働環境が著しく悪いこと
農薬・殺虫剤の使用
コットン素材の原料として世界中で綿花が生産されています。綿花は直接、口に入れるわけではないため、生産過程で大量の農薬や殺虫剤が散布されているのです。
しかし農薬などの化学物質は、土壌を汚染し地球環境を悪化させるだけでなく、綿花栽培に関わる生産者にも深刻な健康被害が報告されています。
これに対しエシカルファッションで使用されるオーガニックコットンは、化学肥料や農薬に頼らない方法で有機栽培されています。オーガニックコットンは消費者の肌にも優しいとされているため、需要は今後も伸びていくでしょう。
漂白剤の使用
衣服の漂白には漂白剤の使用が欠かせません。特に綿花は薄い茶色をしているため、真っ白な生地にするには、塩素系漂白剤などの化学薬品を大量に使う必要があります。
大量の化学薬品の使用による水質汚染が続くと、環境への負荷はますます大きくなるでしょう。
エシカルファッションでは、漂白や染色の方法もなるべく環境負荷が少ないものが選ばれます。例えば、塩素系に比べて環境負荷が低いとされる酸素系漂白剤や、染料にも天然素材を使用するなど、環境へ配慮した取り組みがされています。
水質汚染問題を解決するためにも、エシカルファッションの取り組みは重要な位置付けといえるでしょう。
リヴィングウェイジが保証されていない
リヴィングウェイジとは労働者が最低限の生活を送るための必要賃金のことです。発展途上国がアパレル生産の拠点となってきた背景には、人件費が安いことが要因にあります。
労働者は過酷な労働環境だったにもかかわらず、改善がなされなかった状態が続いたと言われており、健康や労働安全にも支障を来たすことが懸念されています。
そのため、エシカルファッションを推進する企業や団体は、労働環境の改善を目指して以下のような「フェアトレード」の促進に取り組んでいるのです。
- 十分な賃金を保証し労働者の生活を安定・向上させる
- 子供たちの強制労働をなくし、教育時間を確保する
- 結果的に、品質の高い製品を生み出すことにも寄与
フェアトレードな労働環境が普及することで、ファッションに関わる多くの人々がより幸福になれるものと期待されています。
エシカルファッションの実現に向けて必要なこと
エシカルファッションは着実に広がってきているものの、世界的な実現にはまだ時間がかかるかもしれません。
エシカルファッションの実現に向けて必要なことは、良いものを長く使っていく「スロー・ファッション」という意識が重要です。
そのためにも、多くの人が自身の気に入った服を長く愛用することが身近で実践できるファストファッションの第一歩といえます。スロー・ファッションは、自然と資源を無駄にせず、環境に配慮しながらファッションを楽しむことにつながるからです。
また衣服を購入する際には、原料や素材、製造までのプロセスだけでなく、取引方法や包装などにも目を向けることが重要です。「エシカルファッション」として取り組まれているものであるかを理解できるようになっておくと良いでしょう。
【今注目のエシカルファッションとは】まとめ
エシカルファッションの登場後、消費者はこの服がどこで、どのように作られたかに関心を持つようになりました。
もともと日本人には「もったいない」という文化があるため、長く大切に使うのは得意だと考えられます。一人一人のちょっとした行動変化によって、日本でもエシカルファッションの輪は急速に広がっていくかもしれません。
まずは自身が着る服の背景に思いを巡らせるところから始めてみると良いでしょう。
コメント